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■子を抱けない親

 陸遜には、父というものがわからなかった。早くに実父を亡くし、育ての親である族父の陸康も、12の時に戦死した。陸遜は幼いながらにその家督を継ぎ、一族の長として立派に振る舞った。慎み深く、しかし堂々として人を導く。陸伯言という男は、つねに、そうあったのだ。使命感に、幼少より身に付けた体裁に、緊張の糸に、囚われ続けた陸遜には、私情というものがわからなくなっていた。常に周りの豪族や諸将、呉という国の機微によってあった陸遜には、ただ一人の父親として子に向き合うということができなかったのである。

■家族愛

 陸遜の妻は、彼が仕える孫家の、若き姫であった。物静かで美しく、まるで人形のような彼女を、陸遜は丁重に迎えたが、その接し方は、歳の離れた箱入りの姫をどう扱っていいものかと倦ねるようでもあった。

 そんな両親のぎくしゃくした関係を、陸抗はどこか他人事のように見据えていた。愛している。何度も交わし合った言葉は、実感として陸抗の胸に響くことはなかった。偉大な父を尊敬していた。優美で繊細な母を気遣った。だがそれは決して愛として芽生えることはなかった。

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